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神戸家庭裁判所柏原支部 平成7年(家)31号 審判 1995年6月30日

主文

<省略>

一 申立の趣旨及び理由<省略>

二 当裁判所の判断

(1) 本件申立は、戸籍法一一三条による訂正の許可の審判を求めるものであるところ、同条による戸籍訂正は、訂正事項が軽微で、親族相続法上の身分関係に何ら影響を及ぼすべきおそれのない場合に限り許されるものであって、訂正事項が出生年月日、死亡年月日時刻、場所等単純な事実に関する記載であっても同様であると解すべきである。

そして、身分関係に重大な影響を及ぼす場合には、身分関係を確定する確定判決あるいは確定審判(家事審判法二三条による)に基づいて戸籍法一一六条による訂正がなされるべきであると解される。なお、その場合判決主文において戸籍を如何に訂正すべきかについて直接判示されていることまでを要するものではなく、訂正事項を明確ならしめる証拠方法として確定判決を要するという趣旨であると解される。

(2) そこで、本件申立について検討する。

① 春子及び夏子の死亡原因

一件記録によれば、春子と夏子は、平成七年一月一七日、阪神淡路大震災における自宅の崩壊により、自宅において窒息死したことがみられる。

② 春子、夏子の相続関係について

一件記録によれば、春子とその夫乙原冬彦(昭和三六年一一月七日死亡)との間には、乙原一郎、乙原二郎及び夏子の三名の子がおり、現在、夏子を除く二名が存命であること、夏子とその夫の申立人との間には、長男甲野秋彦(昭和三四年七月九日生)がいることが認められる。

したがって、春子が夏子より先に死亡した場合、春子の財産は春子の子である乙原一郎、乙原二郎及び夏子の三名が相続し、夏子が春子から相続した財産は、夏子の死亡によってその夫である申立人とその子である甲野秋彦が相続することになる。

一方、春子と夏子のどちらが先に死亡したか不明の場合には同時死亡の推定を受け、春子と夏子の間には相互に相続はおこらないから、春子の財産は夏子以外の春子の子乙原一郎及び乙原二郎の二名並びに夏子の子である甲野秋彦が相続することになる。

③ 以上のとおり、春子の死亡時刻がいつであったかによって相続人の範囲が異なることになるから、本件戸籍の訂正許可の申立は、相続法上の身分関係に重大な影響を及ぼす事項について訂正を求めるものであって、不適法なものであるというべきである。

これに対し、申立人は、「具体的な相続分につき、(2)のいずれの場合であっても乙原一郎及び乙原二郎の相続分割合は変わらず、一方、相続分割合につき影響を受けるべき甲野秋彦は申立人が相続人となることに異議を述べていないから、相続関係に重大な影響を及ぼすものではない。」と主張するが、相続分割合について影響を受けない者にとっては、誰が相続人となっても影響がないというものではないし、また、相続財産には積極財産、消極財産の二種があり、誰が相続人になるかは、債権者にとっても重大な影響を及ぼす事項であるから、相続分割合につき影響を受けるべき相続人が異議を述べていないことをもって、重大な影響がないとはいえない。

(家事審判官 白神恵子)

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